
3月の大相撲本場所は例年大阪で開かれ、波乱が起きやすいことから“荒れる春場所”と形容される。季節の変わり目で寒暖の差が大きく、体調管理が難しいことが一因に挙げられるが、新型コロナウイルス感染拡大防止のために今年は特別に東京・両国国技館で開催される。 いつもと違う3月の土俵は、モンゴル出身の横綱2人にひときわ大きな注目が集まる。2月の時点でそろって35歳の白鵬と鶴竜。ともに休場が目立ち、昨年11月場所後の横綱審議委員会(横審)で「注意」の決議を受けた。特に鶴竜は進退を懸けることを公言し、春場所は引退と背中合わせ。両横綱にはさまざまな闘いが待ち受け、大変な立場でもある。
▽定説との闘い
現在、新型コロナ対策として各部屋を往来する出稽古の禁止が続く。その代わり、番付発表前の一定期間、PCR検査を受けた上で両国国技館内の相撲教習所に集まる合同稽古が行われている。今回は2月20日から6日間実施され、鶴竜は最初の2日間で実力者の御嶽海を相手に計30番取り全勝した。低い踏み込みから前まわしをつかみ、素早く寄り切る内容が光った。昨年12月に行われた前回の合同稽古では、参加したものの相撲を取らなかったことを考えれば状態は上がっている。 ここで考慮しなければならないポイントがある。稽古相手にとってのやりにくさという点だ。鶴竜はベテランで、次の場所に進退を懸ける立場。相手からすれば、まず負傷させてはいけないという意識が働きがちだ。以前、引退危機の大関と場所前に手合わせしたある幕内力士が稽古後「思い切っていって大関にけがをさせてしまったら大変。なかなか思うように向かっていけなかった」と漏らしていた。稽古場ゆえに100パーセントの力ではぶつかっていけない微妙な心理状況。ましてや「稽古場と本場所は違う」というのが角界の定説だ。合同稽古の結果が即、春場所での好成績に直結するわけではない。 番付社会の相撲界で、横綱の地位は別格だ。月給は300万円で、もちろん休場しても支払われる。引退後も大関以下とは違い、現役時代のしこ名のまま5年間、親方として日本相撲協会に残ることができる。親方になれるのは日本国籍保有者で、鶴竜は昨年12月に国籍を取得した。予想以上に手続きが長期に及んだといい「やっとという感じ。一つ悩みの種が消えたので、すっきりとまた相撲に集中できると思う」とコメント。土俵外の心配事が一つ消えたことはプラス材料だ。