【トップに聞く建設・住宅業界の今】TECRA株式会社 – ZUU online

【トップに聞く建設・住宅業界の今】TECRA株式会社  ZUU online…

特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

2001年に横須賀市にて内装業で開業したマルイマが前身のTECRA株式会社。当初は内装工事が中心だったが、やがて建設工事全般を請け負うようになった。2006年には不動産取引業務を開始し、2009年に新築工事を手掛けるなど、建設不動産業へと事業を多角化。2014年には日本を飛び出してモンゴルの開発プロジェクトに着手。2017年にラオス、2019年にウクライナへと開発エリアを広げている。モンゴルの物件ではクラウドファンディングを活用したファンドを組成し、即日申込上限に達するほどの人気となった。

(取材・執筆・構成=不破聡)

今井 豊和(いまい・とよかず)

TECRA株式会社代表取締役社長
1976年神奈川県横須賀市生まれ。神奈川県立横須賀工業高等学校卒。
工業高校卒業後、内装業の会社に就職。当初は内装職人として独立したものの、後に建設から不動産までトータルで請け負うようになった。業界の問題点や社会が抱えている課題を解決するために仕事をし、その結果が会社を大きくしたと語る。

一人親方からグローバル企業に成長

――1月にモンゴルの首都ウランバートルに中小企業向けオフィス「HOIMOR OFFICE」が竣工しました。

設備が不十分かつ人材難の新興国で工期通りに竣工しました。モンゴルへの進出は2014年にしているのですが、プロジェクトの立ち上げ当初は意思の疎通、コミュニケーションの整合性をとるのにずいぶん苦労しました。言語が違うというよりも、文化の違いに苦しんだのです。6年かけてモンゴルの人々と信頼関係が結べ、ようやく日本に近い安定した仕事ができるようになりました。

モンゴルでは古くからある大きな財閥や大企業が街の中心地に多く存在しています。そのため、中心街のオフィスビルは部屋の区画が大きすぎて中小企業が求めるオフィスビルの区画と乖離がある現実に直面しました。そこで当社ではスタートアップや中小企業でも使いやすい50㎡くらいの需要があると見込み、このビルの開発を進めてきました。

――なぜ、モンゴルやラオスなどの新興国で事業を始めようと考えたのですか?

日本に限らず、先進国の建設技術は最高水準に達しており、その中で苛烈な競争にさらされています。ただでさえ技術力の高い日本において、シェアの取り合いで勝負するのは厳しいと判断しました。

このままではただ競争に巻き込まれるだけだと危惧し、新たな試みとしてIoT技術を盛り込んだ宿泊施設の共同開発に携わり、建設分野を担当しました。当社では常々、恐れず新しい領域に踏み込んでいくことが重要であると考えています。しかし、生みの苦しみのハードルが低いビジネスは流行に左右されやすい面もあり、新型コロナウイルスといった外的要因に負けてしまいます。

流行に乗るだけではなく自分たちの力で会社を大きくしようと改めて考えた時、本当に必要な所に本当に必要な物をという原点に帰ると、新興国こそ必要な物が不足している状況ではないかと思いました。

――会社の立ち上げ当初から海外展開は視野に入っていたのでしょうか?

まったくありませんでした。私はもともと内装職人の一人親方として独立した人間です。仕上げの仕事は、建物が完成に近づいた段階で施工するのですが、たいていは工期が遅れてそのしわ寄せが仕上げを担当する職人にやってくるのです。つまり工期の遅れを取り戻すために、完成に一番近い工程を担当する人間が短納期で仕事を済ませなければならないわけです。

このままではお客様に真にご満足頂けるクオリティの仕事は出来ないと考え、工程の問題を解決すべく工事を一手に引き受けるようになりました。やがて更にできる仕事の幅を拡大すべく建設業全般へと手を広げ、不動産取引にも乗り出しました。その延長にたまたまチャンスをいただいたことで海外に進出しました。

私が会社を経営する上で感じていることは、事業展開や収益性だけを追いかけてはダメだということです。業界や社会が抱えている問題や課題に真摯に向き合い、それを解決した結果がお金につながるのだと思っています。

宿泊施設の建設はインバウンド、オリンピックの流れに乗って、上手く行くと慢心していたところがありました。それがコロナで行き詰まっています。他力本願で収益性だけを追い求めていた結果だと反省しています。

――モンゴル国営孤児院の改修工事を行うなどCSR活動にも力を入れています。

ビジネス展開している国には必ず感謝の恩返しをする、というのが当社のモットーです。

ウランバートルにある国営の孤児院「ウヌルブル」は設備の老朽化が激しく、トイレやシャワーが不十分でした。そのため、当社が改修工事を計画して、少しでも快適に過ごせるように取り組みました。

当社は今後も利益の一部を還元して行きますが、モンゴルはまだまだ発展の途中であり資金を提供するだけでは不十分だと感じています。その為に我々のできる事は文化を理解し、先の暮らしに本当に役立つ物を考えていく事だと思っております。

モンゴルの不動産に投資するファンドは即日完売

――2021年からモンゴルの不動産に投資をするクラウドファンディングを開始しています。

モンゴルの物件に対しては日本の銀行が融資をしてくれるわけではないため、自分たちで資金調達をする必要があります。4年前に開発したモンゴルのオフィスビルは稼働率が95.3%(2020年1月〜2020年11月の平均)と高く、投資家から資金を集めながらモンゴルの良さを知って頂けるのでは無いかと考えました。

「TECROWD」1号として募集をかけたところ、2月22日の先行予約で即日2,850万円の上限金額に達しました。想定利回りが8.0%と高く、少額の10万円から投資できるために人気を得たのでしょう。モンゴル経済の発展に寄与できるところに面白さを感じて頂いた投資家の方も複数いらっしゃり、激励のお言葉を頂戴しました。実はそのような価値観が、我々がこの事業を展開する目的のひとつでもあります。日本の投資家の皆様に、投資をすることで誰かのためになるという価値観とともにこれからもより良いサービスを届けたいと考えています。

ファンドは優先劣後構造を採用しており、損失額が当社の出資分を越えない限り元本割れしないことも特徴ですし、新興国不動産として懸念されるであろう為替リスクへの対策も積極的に行っています。

新興国の発展にとって市街地での不動産開発は必要不可欠であり、日本の技術力が最大限発揮できる分野です。しかし、開発資金のバックアップは十分とは言えません。クラウドファンディングの活用によって資金調達の自由度が上がり、事業展開はしやすくなるかと思われます。

――新型コロナウイルスの影響は?

宿泊施設系は大きなダメージを受けました。大阪で当社が建設を担当した宿泊施設を例に挙げると、竣工はしたものの今も開業できていないのが現状です。ワクチンに期待をかけているとはいえ、収束する兆しは見えておらず、インバウンドの戻りがいつになるのかもわかりません。ホテルを開業したとしても以前のように人が入るとは思えず、物件そのものを見直す可能性もあります。直接自社でホテル運営をしているわけではないとはいえ、建設した我々としても大きな責任を感じています。

渡航制限がかかったことで、軒並み海外へ渡航することが出来なくなりました。海外事業の多くは現地のエンジニアの方々に対して遠隔で指示をし、最低限だけプロジェクトを進めている状況です。

今はどの会社も身動きがとりづらい状況だと思います。当社も無理をしてプロジェクトを動かすことはせず、情報収集に努めているところです。ポストコロナは生活様式や消費者意識が変わり、新たな市場が誕生するでしょう。その一方で外食文化などが廃れる可能性もあります。その中で社会にどのような課題が出てくるのかを見定め、それを解決するために当社は何ができるのかを考えています。

――海外事業は今後も拡大するのでしょうか?

はい。現在の売上構成比率は海外より国内が上回っておりますが、今後は海外の比率を高めていく予定です。基本的にはオフィス、レジデンス需要が旺盛な新興国での事業展開を考えています。特にモンゴル、ウクライナ、ラオスのように周辺の国々が栄えている場所は、発展するポテンシャルを秘めています。そのような国をターゲットにプロジェクトを立ち上げたい。そしてクラウドファンディングを活用した資金調達を用いて、現地の発展と貢献に努めていきたいと考えています。

Source