<大相撲は、外国出身力士が「ニュウニホンカ」することを目指せ、と有識者会議が提言を出した。なぜこんな造語なのか。どんな意図があるのか>
なんとも不気味な言葉が目に留まった。入日本化。
ニュウニホンカと読むようだが、「大相撲の継承発展を考える有識者会議」が4月19日に日本相撲協会に提出した提言書で用いられている。
同会議は相撲協会の八角理事長の諮問機関として2019年に設置された。契機となったのはモンゴル出身の元横綱、日馬富士による傷害事件などだという。
報道だけでは詳細不明だったので、50ページ弱の提言書に目を通すと、こんなことが書いてあった。
大相撲の前には二つの道がある。一つは国際化、脱日本化の道で、柔道が進んできた道に似ている。もう一つは脱日本化しない道で、こちらは剣道が進んだ道に似ている。
そして、大相撲は後者を選ぶべきであり、多国籍化に伴う変容を受け入れるのではなく、外国出身力士が「入日本化」することを目指すべきという図式だ。
つまり、「入日本」は「脱日本」の反対語として造られた言葉だった。
なぜこんな言葉を用いたかと言えば、強制や同化を連想させる「日本化」という言葉をあえて避けたからとも書かれていた。外国出身力士による「入日本化」はあくまで「内発的な意思」によるものであり、「日本文化」の押し付けではないという整理のようだ。
正直なところ、それが「同化」でないというのは質(たち)の悪い言葉遊びにしか思えなかった。
しかも、肝心の「日本文化」とは一体何かと言えば、その内実に関する分かりやすい説明はない。
「大多数の日本人が自然に受け入れてきた大相撲の神事に由来する古典的な伝統・精神・技法」などの記述があるが、「自然に」と言われても実際の中身はブラックボックスだ。「日本人」の私にもよく分からない。
ヒントになりそうな箇所もあった。ハワイ出身の高見山が、親方となった後に東関部屋で掲げていた「十の心」という標語だ。
明らかに肯定的な文脈で紹介されていて、「①おはようという親愛の心」から「⑩嘘をつくなという正直な心」まで続く。「大相撲が強調してきた礼の精神に通じる」ものであり、高見山の例はまさに大相撲を通して「入日本化」した姿だという説明がされている。