発刊された「永訣」。被災者から手書きの手紙も寄せられた
関西学院大の金菱清教授(45)と、昨春まで在籍した東北学院大で2020年度も社会学を学ぶ金菱ゼミ生ら12人がまとめた。
「めげずに、思うがままに進んで行け!」
宮城県女川町の任期付き職員平塚宏美さん(34)は、手紙で10年前の自分にエールを送る。
石巻市渡波地区の自宅が津波で全壊し、市雄勝病院に入院中だった祖父を亡くした。復興の力になりたくても、経験も知識もない自分がもどかしかった。
国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員としてモンゴルで2年間、子どもたちにバレーボールや日本語を教えた。帰国後の2016年春から復興庁の派遣職員などとして女川町役場に勤める。「支援は押し付けるものでなく、地元の思いを大切に」。モンゴルでの経験を被災者のコミュニティー支援に生かす。
地元の男性と結婚し、長男大遥(たいよう)君(1)が生まれ、女川に家を建てた。「震災は多くのものを奪ったけれど、多くの大切なものに気付かせてもくれた」と平塚さんはつづる。
震災前の日常を取り戻したいと切望する人もいる。石巻市の母親は、震災で失った長女を守ってほしいと10年前の自分に津波を警告し、「どうかこの手紙を信じて」と訴え掛ける。
妻が行方不明の同市の男性は葬儀をすることができていない。「ずっと女房を探しながら死んでいくのだろう」と苦悩を明かした。
10年前の自分に手紙を書く行為に関し、金菱教授は「震災前と震災後のどちらの人生に重みを見いだすのか、残酷な選択を強いることになった」と受け止める。「どの手紙も内面から迫る言葉がつづられている。被災者にとって10年がどんな年月だったのか、感じてほしい」と話す。
四六判210ページ。2200円(税別)。新曜社発行。