モンゴル・ウランバートルには、「ゲル地区」と呼ばれる地区がある。遊牧民が首都に移住して、同市周辺に形成されたゲル(テント)や簡易な家の居住区だそうだ。
こうした地区には上下水道システムがなく、真冬に気温が氷点下40°Cになると石炭を使うので、大気汚染が深刻化している。ウランバートル市の人口の70%以上がゲル地区に住み、年間30,000人ずつ増加。その多くは、遊牧生活をやめて都市に移住しているのだ。
モンゴルが都市化する一方で、住民は新たな課題に直面し、集団として責任を果たすべき住民共通の問題が出現した。そこで、Rural Urban Frameworkという組織がこの地区で「Ger Innovation Hub」という施設の建設に取り組んだ。
Ger Innovation Hubは、ゲル地区に住む居住者にすぐに必要なコミュニティのインフラを提供するもので、「コミュニティ」という言葉をもたない文化において、住民が集まって暮らすことの意味を考え、新しい共同作業のやり方を築くための施設である。
このハブでは、保育園、自動クラブ、パフォーマンススペース、会話や仕事を訓練する教育ワークショップを提供。ゲルにヒントを得て層状の構造とし、屋内は泥レンガ造り、外装はポリカーボネートにすることで冬のあいだでも輻射熱を閉じ込める緩衝空間をもつ。この地区においてエネルギー消費を抑え、石炭消費を削減するモデルとなる。
この建物では、コミュニティのあらゆる分野にかかわる場所であり、特に冬場は自宅に閉じ込もるだけでなく、通うことのできるもうひとつの場所となる。また、建物のパフォーマンスの監視・評価を継続することで、建物を作るプロセスがコミュニティの構築を可能にするモデルにもなりうるとしている。