現在、異例の迷走状態に陥っているTOB(株式公開買い付け)案件がある。昨年2月、投資会社のMETA Capital(東京都港区)はジャスダック上場の金融会社、澤田ホールディングス(HD)株の過半を200億円余りで取得する計画を公表した。ところが、TOB期間は延長に次ぐ延長で、1年以上過ぎた今も出口がまったく見えないままだ。
その理由は海外当局の動きにある。澤田HDの稼ぎ頭はモンゴルで最大手のハーン銀行。そうしたところ、現地の中央銀行はTOB計画に警戒感を持ったらしい。直後、主要株主変更には事前承認が必要との見解を示したのである。以来、意思疎通さえ事欠く状況だ。
META社が澤田HDの大株主であるエイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄氏と接触したのは2018年7月。ただ、取締役陣に元ソニー社長の出井伸之氏ら有力者をそろえるものの、同社はその時点で資金の当てがなかったようだ。出資者探しが始まったのは翌年6月。それから半年余り、待望の金主が現れる。しかも個人で260億円もの大金を拠出するという。
その人物の名は服部純市氏。世界的時計ブランド「SEIKO」を生み出した服部金太郎翁のひ孫に当たり、本来なら家督を継ぐべき立場にあった。実際、1999年にはグループの製造部門を担うセイコーインスツル(SII)の社長に48歳で就任している。が、06年以降、純市氏は保有するセイコーホールディングス(HD)株を手放すなどグループから遠ざかった。というより、それは追放に近いものだった。その年11月、SIIの全役職を解かれたからだ。